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◆第15話 2004.9.29  改革期の企業経営 ---松井証券の改革と今後の戦略--- を聞いて

 何だ!
あのふてぶてしい態度は!
人をバカにしたような顔で見るな!
演台の水を100回も クイッ クイッ って
     いかにも高級ワインでも飲んでいるように飲むな!
何なんだ!この男は!


先日松井証券社長の話を聞いた第一印象です。

 「世の中の常識をただ鵜のみにしてお客さんのいうことを聴いていてはだめだー」
の発言の時には、私の腹ただしさも頂点となり、もう会場を出ようとさえ思いました。ただ席を立って出て行く勇気がなかった私は、聞きたくもない話を聞かされているうち、その態度・話し方・顔つきとは裏腹に語っていることは的を得ていると思い始め、共感できることが多くなり、完全に話しにのめりこんでいました。

 松井証券の松井道夫社長の取り組みを簡単に言えば、1917年創業の老舗でありながら中小地場証券にすぎなかった松井証券を、バブル崩壊後、外交営業の廃止などいち早くリストラクチャリングに取り組み、また横並びだった各種手数料を引き下げるなど、業界の慣習や旧来の常識に囚われないビジネスモデルを構築しました。98年インターネット取引を開始し、99年の手数料自由化を機に爆発的に業績を伸ばすなど、現在個人の株売買金額では野村ほか大手3社を凌駕するまでに至っていて、01年に東証1部上場しています。

そんな松井社長ですから
「お客さんのいうことを聞くな!」
の言葉の裏には深い意味があったのです。
彼は
「顧客の要望はさまざまですが、大きく二つのことが挙げられます。それは、
A:勝手なことをいう
B:より安いものを選ぶ。
高度成長期・バブル期ではBよりAを強く望むでしょう。しかしこの変革期においてはBの方を望む傾向があるようです。だから、お客さんの言う事を鵜呑みにしていてはBにならないのです。そこで、本当に誠意をもってお客さんに対応するのです。お客さんの本来望むことを察知し、顧客体質改善をしてあげるのです。そのようにニーズが変化するならば、提供する側(企業)もその望むことに対応できるよう社内体質改善する必要があります。

 我々建設業界で言えば、お客さんがビルを建てる場合、建築面積100u 5階建て駐車台数は50台欲しいので敷地面積300uを希望したとします。でも駐車スペースをビルに盛り込んで(回転式駐車場)5階を7階に設計変更し、敷地を200uにした方がライフサイクルコストを低減できますね。そういう提案をすることでしょうか。

さらに、彼はインパクトを与えるために会場の皆に天文学になぞらえて話し始めたのです。
「今では天動説でした。例えば、お客さんに売り込むため営業マン・セールスマンが顧客訪問し、大変な営業合戦を繰り広げるわけです。例えば50インチのプラズマテレビで言えば、定価110万円がぐらいでしょうか? ヤマ○電機に行って見てみると80万円前後。どのメーカー・機種がいいか、うろうろ歩き回っていると店員がそばに寄ってきて丁寧に説明をしてくれます。約1時間の検討の結果、やはり液晶シャープの○○○○○が気に入ることになります。すると、その客は携帯電話を持ち出し、ネットでラクテンを検索同機種を探したところ60万で入手できることが判明。

『あっ!こっちのほうが安いからラクテンで買おう』
するとヤマ○電機の店員は、
『ちょっと待って下さいよ。1時間もつき合わせて、いくらなんでもひどいじゃないですか?』
でもお客曰く、
『理由がどうあれ同じ商品が80万と60で売られていることを知ってしまった以上、80万で買うわけにはならないですよ。じゃ、60万で売ってくれますか?』」

さらに話は続き、
「ラクテンはコスト削減のため、インターネットを駆使し、店舗を構えずかつ、過剰な在庫を置かず、そんな商法を徹底して実行し、利益を賜っている会社です。これからの顧客スタイルは、大勢のお客さんが無数の情報の中からあらゆる手段を使ってより安くいいものを冷静に判断し購入します。お客さんを地球にたとえれば、地球はじっとしているのではなく動いているのだから、天動説ではなく、地動説なんです。」

さらに松井社長は
「そのお客を捕まえるには何と言っても
―――この指止まれ商法―――
全てのお客を相手にする必要はないのです。この商品の価値を評価する人には売ってあげてもいいでしょう。要するに、
―――欲しいならこの指止まれ―――
しかし、それを実現するためには、指に掲げるものがないと話にならないですよね。」
 想像するに、彼は苦しみながらそのシステムの構築に全力で取り組んで実現させるのでしょう。私もその指に掲げるもののために努力していますが、本当に掲げられるまでになるか否か?実のところ期待と不安は背中あわせです。

彼はその後、
「その価格を下げるためのコストダウンには何か妨げになりますか?」
と皆に問いかけました。
「人件費ですか?設備費ですか?それらは私が今から申し上げる事に比べたらたわいもないものです。それは何かといえば、時代とのギャップです。時代とギャップがあることをしていることが、一番コストがかかっているんです。そういうことをし続けるか改革するかは、ただ一つのことに左右されます。それは社長の頭の中、社長の決断です。実行して成功か失敗かの前に決断しなければならないのです。しかし、全てが成功するとは限りません。だからコーポレットカバダンスの考え方を取り入れなければならないのです。コーポレットカバダンスとはもし方針が行き詰まったとき、すぐに別のシステム・人事に変更することができるシステムの事です。変化に合わせて組織はどんどん変わらなければなりません。そして最近は、コンピューターや機械化にたより過ぎる同調がありますが、これからは人間性が復活してくる気がしますね。人の心がますます重要になりますよ。」

最後にこう語っていました。
「よくぞこういう時代に神様は私に生を授けてくれたなぁ。」
「先日、亡くなったおじいさんが遺言めいたことを言ってました。」
   「相場は
    勝つまでやるんだ。
    勝ったら止めるんだ。」

 実に衝撃的な一夜であり、また、少々おじけ付いていた私の背中をポッと前に押し出してくれたような気がしました。演台上の顔とは全く違ったやさしい顔をして、出口の前で皆さんに深々と頭を下げて、会場を後にした姿がとても印象的でした。

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